はじめに
秋になると、枝いっぱいに小さな実をつけてくれる「老爺柿(ロウヤガキ)」。
柿の仲間の中でも特に人気が高く、秋の棚場を一気に華やかにしてくれる存在です。
僕も初めてロウヤガキを手にしたときは、手のひらサイズの鉢からぶら下がるかわいらしいオレンジの実に感動しました。
この記事では、ロウヤガキの特徴や育て方、季節ごとの管理方法を初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
※ 棚場の環境や鉢の大きさなどによっても、管理方法は変わりますのでしっかり盆栽を観察しながら調整してください。このブログでは3〜4号鉢の小品盆栽を想定しています。

基本情報
- 学名:Diospyros kaki var. silvestris
- 分類:カキノキ科カキノキ属の落葉樹
- 特徴と見どころ:秋に小ぶりの実をたくさんつけるのが最大の魅力。樹皮の荒れた古木感と相まって、風格のある盆栽に仕上がります。葉もやや小ぶりで、紅葉も楽しめます。
- 開花・結実・見頃の時期:5〜6月に花が咲き、10〜11月に実が色づきます。
盆栽を育てる前の準備
必要な道具と資材
- 鉢(3〜4号程度の浅鉢がおすすめ)
- 鉢底ネット・用土・針金
- ピンセット・剪定バサミ
苗木の選び方
ロウヤガキは雄株と雌株があり、実がなるのは雌株のみです。
園芸店や盆栽店で購入する際は、実付きの苗を選ぶと間違いありません。
また、幹の曲がりや樹皮の荒れ具合を見て、将来の樹形をイメージしながら選ぶのも楽しいポイントです。
雄株だけで実をつける方法(人工的な単為結果)
ジベレリンを使って実をつける方法
ジベレリン(Gibberellin)は植物ホルモンの一種で、受粉をしなくても実を成らせる働きがあります。
ロウヤガキのような雌株だけの盆栽でも、これを使うことで擬似的に実をつける(単為結果)ことができます。
僕も雄株がないので、ジベレリンを使って人工的に実を付けさせています。
🔬 用意するもの
- ジベレリン粉末(園芸用)または液剤(濃度25〜100ppm程度)
- 綿棒、小筆または霧吹き
- 小さな容器(希釈用)
🌸 使用タイミング
- 開花期(5月頃)に雌花が咲いたタイミングがベスト。
- 花が完全に開いて2〜3日以内が最も効果的です。
(それ以降は柱頭が枯れて効果が下がります)
💧 使用方法
- ジベレリン粉末を水に溶かし、25〜100ppm程度の液を作る。
(例:500mlの水にジベレリン粉末0.0125〜0.05g) - 綿棒や小筆に液を含ませ、雌花の柱頭部分に軽く塗布する。
- 花がしおれるまで雨に当てずに管理する(1〜2日)。水やりの際も花に水をかけないようにします。
- 1〜2週間後、子房が少し膨らめば成功!
🧡 成功のコツ
- 花の数が多い場合は、全体の3〜4割程度に試すとリスクを減らせます。
- 使用後は、水切れと強日差しを避けて管理。
- 肥料は控えめにして、樹勢を維持。
僕も最初は「雄株を購入しないとダメかな」と思ってましたが、うまくいった時は本当に感動しました。雄株がなくても、しっかり実がふくらんでいく様子を見るのは嬉しいですよ。
⚠️ 注意点
- 濃度が高すぎると花がしおれたり、実が変形することがあります。
- 一度に大量に処理せず、少量テストしてから本格使用がおすすめ。
- 人体には使用しないこと。取扱時は手袋を着用してください。

ジベレリンでも今年はこんなにたくさん実がとまりました。
盆栽の育て方
置き場所(日当たり・風通し)
基本的に日当たりの良い屋外がベストです。
春から秋はよく日に当てて、枝葉を丈夫に育てます。
ただし、真夏の直射日光が強すぎる時期は、半日陰に移動して葉焼けを防ぎましょう。
風通しのよい場所に置くことで、病害虫の予防にもなります。
水やりの方法と頻度
ロウヤガキは乾燥が苦手です。特に実をつけている時期は水切れに注意。
用土の表面が乾いたら、鉢底から流れ出るまでたっぷりと与えます。
春、秋は1日2回、夏は1日3回(朝・昼・夕)、冬は2日に1回を目安に調整しましょう。
実がついている時に水切れを起こすと、実がしぼんでポトリと落ちてしまうことがあります。
旅行や長時間の外出で家を明場合は自動灌水などの対策が必要ですね。
肥料の与え方(種類・時期・頻度)
肥料は春(4〜6月)と秋(9〜10月)に与えます。
実を楽しみたい場合は、開花期〜結実期にはやや控えめに。
おすすめは有機質の固形肥料(油かす)です。
実が終わった冬前に少し追肥して、翌年の花芽を充実させましょう。
土選び・植え替え方法
用土は赤玉土7:桐生砂3くらいの配合がバランス良いです。
排水性と保水性を両立させましょう。
植え替え時期は2〜3月の休眠期。
古い根を1/3ほど整理し、新しい土に植え替えます。
根を切りすぎると樹勢が落ちるので注意です。
剪定のやり方と時期
剪定は2回行います。
- 冬の休眠期(2〜3月):枝の整理・樹形づくり
- 秋の収穫後(11月):不要枝・徒長枝の整理
ロウヤガキは枝が込みやすいので、風通しを意識して剪定します。
若木のうちは樹形を決めすぎず、自然な曲がりを残すと味わいが出ます。
針金掛け・整枝の方法
必要に応じて軽く針金掛けをします。
枝が固くなりやすいので、固くなってしまう前に巻き、無理な曲げは避けましょう。
細枝は折れやすいため、少しずつ様子を見ながら慎重に整枝します。
季節ごとの管理方法
春(3〜5月)
芽吹きが始まります。植え替えや剪定の適期。
新芽が出る頃はアブラムシがつきやすいので、早めの防除を意識します。
鉢の数が少ない場合はスプレータイプの薬剤が便利です。
夏(6〜8月)
成長期。水切れに注意してしっかり日光に当てます。
直射日光が強い時は半日陰へ。ハダニ対策に葉水も効果的ですが、やはり薬剤散布は欠かせません。
秋(9〜11月)
実が色づく季節!肥料を控えめにして、実の色づきを優先します。
落葉後は来年の花芽が形成される大切な時期です。

秋が深まると実の色は濃いオレンジに。なんとも言えない美しさです。※実の色は木によって差があります。もっと黄色や赤色の実が成るものもあります。
冬(12〜2月)
休眠期。寒風にさらされると枝先が枯れるので、軒下などで防寒を。
この時期に植え替え・剪定・針金掛けを行います。
病害虫対策(詳しく解説)
ロウヤガキは比較的丈夫な樹種ですが、実や葉が柔らかく、虫や病気が出やすい時期があります。
特に、春の新芽期〜秋の実成り期に注意が必要です。
早めの発見と予防を意識すると、実のつき方や葉色がぐっと安定します。
よく出る害虫と対処法
アブラムシ
- 発生時期:4〜6月の新芽期
- 症状:新芽や葉裏に群がり、汁を吸って葉が縮れる。
- 対処法: ・見つけたら、水で洗い流すか、粘着テープで除去。 ・被害が多い場合は「オルトラン粒剤」や「ベニカXファインスプレー」などの薬剤を使用。
- 予防法:日当たりと風通しを良くすることで発生を抑えられます。
僕は春の芽吹き時期に毎年チェックしますが、アブラムシは最初に気づけるかどうかで被害が全然違います。早期発見がカギです。
ハダニ
- 発生時期:6〜8月の高温・乾燥期
- 症状:葉の表面に白い点が出て、やがて葉全体がかすれたように見える。
- 対処法:
・霧吹きで葉裏に葉水を毎日与える(ハダニは乾燥を好む)。
・「花いとし」などの市販のスプレーや「ダニ太郎」「コロマイト」など専用薬剤も有効。 - 予防法:梅雨明け頃から葉裏をチェック。水切れしないように。
油断して葉水をサボったらハダニにやられて、実が色づく前に葉が落ちてしまったことがあります…。夏場の湿度管理はほんとに大事です。
鉢の数が少ない場合は、スプレータイプの花いとしが便利です。
カイガラムシ
- 発生時期:5〜10月
- 症状:枝や幹に白や茶色の小さな殻のような虫が張り付く。
- 対処法: ・歯ブラシやピンセットでこすり落とす。 ・多い場合は「マシン油乳剤」を散布。
- 予防法:冬場の休眠期に幹の古い皮を軽くブラッシングしておくと、越冬個体を減らせます。
コナジラミ・メイガ類
- 発生時期:夏〜秋
- 症状:葉の裏に白い小さな虫がついて、実の表面が黒ずむ。
- 対処法: ・粘着トラップで捕獲。 ・実の近くに虫除けネットを設置すると効果的。
- 予防法:風通しを確保し、こまめに落ち葉を掃除。
主な病気と予防・治療
うどんこ病
- 発生時期:5〜6月、9月頃
- 症状:葉や新芽に白い粉のようなカビが生える。
- 対処法:
・発生した部分は早めに切除。
・「ベニカマイルドスプレー」や「カリグリーン」などの薬剤を散布。 - 予防法:風通しと日当たりを確保。湿気をこもらせない。
炭疽病(たんそびょう)
- 発生時期:梅雨〜秋
- 症状:葉に黒い斑点が出て、実が黒ずむ。
- 対処法:
・発病した葉や実はすぐに取り除く。
・「ダコニール1000」「トップジンMゾル」などを散布。 - 予防法:水はけの良い用土にして、過湿を避ける。
僕の棚場では、雨の多い年は炭疽病が出やすいので、梅雨入り前に必ず予防散布しています。これだけで安心感が違います。
根腐れ
- 発生時期:一年中(特に夏の多湿期)
- 症状:葉がしおれ、枝が急に枯れ込む。
- 対処法:
・鉢底の水はけを改善。根を確認して黒ずんだ部分をカット。
・軽い場合は、乾燥気味に管理して回復を待つ。 - 予防法:植え替え時に排水性の高い土(赤玉+桐生砂)を使用。
自然派の防除アイデア
- 木酢液(きずくえき)を薄めて散布(500倍程度) → 害虫予防&葉のツヤ出し効果
- ニームオイルスプレー → アブラムシ・ハダニ・カイガラムシの発生抑制
- 葉水(朝夕) → ハダニ防止・湿度維持に効果的
管理のコツまとめ
- 春〜秋は週1回の虫チェック習慣を。
- 病気が出た葉・実は「すぐ取る・燃やす」が基本。
- 冬の休眠期にマシン油乳剤を散布して越冬害虫を防除。
ロウヤガキは「病害虫を出さない環境づくり」が一番の対策です。
風が抜ける場所に置き、葉や枝を混ませすぎないこと。
これだけで健康な実成りが長く続きます。
特に今年は病害虫に悩まされましたが、薬剤散布と通気性の重要性を改めて思い知りました。
老爺柿盆栽の増やし方
ロウヤガキは実生・挿し木・取り木など、いろいろな方法で増やせます。
樹勢が強く、比較的発根しやすいので初心者でも挑戦しやすい樹種です。
- 挿し木:6月頃に今年伸びた枝を10cmほど切り、切り口を斜めにして湿った用土に挿します。半日陰で管理し、1〜2か月で発根します。
- 取り木:5〜6月頃に若木や実生苗から良い枝を選び、環状剥皮して水苔で包みます。発根したら秋〜翌春に切り離して植えます。
- 実生:秋に採った実の種を洗って乾かし、冬の間に冷暗所で保管。翌春(3〜4月)にまくと発芽します。将来の素材づくりにおすすめです。
- 根伏せ(ねぶせ):根の一部を切り取って伏せる方法です。2〜3月の植え替え時に、太めで健康な根を10cmほどカットして、横向きに浅く伏せるように植え付けます。湿度を保ち、半日陰で管理すれば数ヶ月で新芽が出てきます。 古木感のある株立ちや幹模様の素材づくりに最適です。
- ひこばえ(根元芽)からの株分け:ロウヤガキは、根元や幹の下部からひこばえ(根元から出る若芽)が出やすい樹種です。このひこばえを利用すれば、親木と同じ性質の株を簡単に増やすことができます。2〜3月の植え替え時、または秋の落葉後(11月頃)に根元を掘り、ひこばえの根を親木の根から切り離すように分けて別の鉢に植え付けます。※ひこばえが出ないと使えませんので増やしたいタイミングで必ずできる方法ではありません。
よくあるトラブルと対処法
| 症状 | 原因 | 対処法 |
|---|---|---|
| 実が落ちる | 水切れ・肥料過多・日照不足 | 水管理を安定させ、肥料を控える |
| 葉が縮れる | ハダニ・アブラムシ | 殺虫剤や葉水で駆除 |
| 枝が枯れる | 根詰まり・寒風 | 植え替えや防寒対策 |
よくある質問(FAQ)
Q. 実は食べられますか?
A. 食べられますが、渋みが強く観賞用です。
Q. 雄株と雌株の見分け方は?
A. 花を見ればわかりますが、実付きの苗を買うのが確実です。
Q. 実がならないのですが?
A. 栄養過多や日照不足、または雄株の可能性があります。開花期に受粉を促すと効果的です。
Q. 実が黒くなってしまいました。原因は何ですか?
A. 実が黒ずむのは、過湿やカビ(炭疽病など)によるものが多いです。水やりの頻度を見直し、風通しを良くしましょう。症状が出た実は早めに取り除くのがポイントです。
Q. 実を毎年ならせても大丈夫ですか?
A. 毎年たくさん実をつけると樹勢が弱ることがあります。2年に1度は実を控えめにして、枝葉の充実を優先すると長く楽しめます。
まとめ
ロウヤガキは、秋に実をつける盆栽の中でも特に人気の高い樹種です。
四季を通じて表情が豊かで、花・実・紅葉・冬姿と、一年を通して楽しめます。
僕も育て始めた頃は実がなかなかつかず苦労しましたが、日当たりと水やりを意識するようになってから、毎年しっかり実をつけてくれるようになりました。
ポイントは「観察と調整」。
自分の棚場環境をよく見て、その樹に合った育て方を探っていくのが盆栽の醍醐味です。
ぜひ、ロウヤガキの小さな実を自分の手で育ててみてください!








