はじめに
イチョウは、秋の黄葉の王様といってもいいくらい、色づきが見事な樹種です。扇の形の葉が風に揺れる感じも軽やかで、棚場にひとつあるだけで季節感が一気に出るので、僕もすごく好きな樹のひとつです。
この記事では、これから盆栽を始めたい初心者や実生や挿し木からじっくり素材づくりを楽しみたい人に向けて、「イチョウの小品盆栽の育て方」についてまとめました。
※ 棚場の環境や鉢の大きさなどによっても、管理方法は変わりますのでしっかり盆栽を観察しながら調整してください。このブログでは3〜4号鉢の小品盆栽を想定しています。

基本情報
- 学名:Ginkgo biloba
- 分類:イチョウ科イチョウ属
- 原産地:中国原産だが、日本には古くから植樹され寺社にも多い
- 寿命:非常に長寿(樹齢1000年以上の大木もある)
- 特徴のポイント:
・葉が大きいため小品では整枝の工夫が必要
・紅葉は気候次第で変わる
・根の力が強い
盆栽を育てる前の準備
道具と資材の理由まで知りたい初心者向け解説
- 赤玉土(小粒)
→ 保水と通気のバランスがよく、細根がよく出る - 桐生砂(小粒)
→ 赤玉と混ぜて使う - 軽石(小粒)
→ 鉢底に入れ根腐れを防ぎ、乾きの良い土にするため - 剪定バサミ
→ 太めの芽や葉柄を切るため。細枝用と太枝用があると便利 - 割り箸
→ 水やり後に土の湿り気を確認したり、植え替え時の根の位置調整に使う
苗木の選び方
初心者には「実生苗」か「若い挿し木苗」がおすすめです。
なぜかというと…
- 成木素材は葉が大きく、小品に仕立てるのが難しい
- 幹が固まりすぎていて、針金がほぼ効かない
若い素材のほうが「これから好きな樹形を作りやすい」ので好みの木にしやすいです。
避けるべき苗
- 根元がグラグラする苗
- 幹が黒ずんでいる苗(腐れの可能性)
盆栽の育て方

置き場所(日当たり・風通し)
初心者がやりがちな「日陰管理」はNG
棚場の影になりやすい位置だと、
- 葉が薄くなる
- 紅葉が汚くなる
- 枝がヒョロっと伸びる
という症状が出がちです。
ベストな場所
- 朝日〜夕方まで日が当たる場所
- 壁際よりもオープンな棚場
- 風が抜ける位置
※ 秋の冷え込みがしっかりある地域ほど紅葉が良くなります。
水やり
水やりの判断の仕方
初心者におすすめなのは「表土が乾いたら与える」という判断基準。
土を指で触るか、割り箸を刺して湿り具合を確認するのが一番確実です。
季節ごとの具体例
- 春:1日1〜2回
- 初夏〜夏:朝昼夕2〜3回(乾きが早い)
- 秋:1日1〜2回(紅葉狙いなら少し控える)
- 冬:2日に1回
肥料
肥料の置き方
小品盆栽では肥料を全面に置くと効きすぎになりやすいので、鉢のフチに沿って3〜4カ所が基本です。
肥料のあげすぎによる失敗例
- 葉が大きくなりすぎる
- 徒長して樹形が乱れる
- 紅葉が悪くなる
特に秋の肥料過多は紅葉の質を損ないます。
土・植え替え
イチョウの根は「まっすぐ太く伸びやすい」
そのため、太根は必ず整理し、横に広がる根を育てることが小品では重要になります。
細根がしっかり広がれば、将来的に美しい根張りになります。
植え替えの失敗でよくある症状
- 水はけが悪くなる
- 夏に根腐れ
- 逆に乾きすぎる(軽石などが多すぎるケース)
僕の棚ばでは配合は「赤玉7:桐生砂3」がちょうど良いぐらいです。軽石は鉢底に入れる程度です。
剪定
切りすぎ注意の理由
イチョウは、枝のどこから芽が出るか予測しづらい樹種です。
そのため、冬に強剪定すると翌春に「思ったより芽が出ない…」ということがよくあります。
安全な剪定ステップ
- 冬は太い不要枝だけにとどめる
- 春〜初夏の伸びを見て細かい剪定をする
- 樹勢を見ながら段階的に切り戻す
針金掛け
イチョウは針金より剪定で樹形を作るほうが向いています。
曲げる場合は、春〜初夏の柔らかい枝を無理に一気に曲げないように気をつけましょう。
季節ごとの管理
春(3〜5月)
- 芽が勢いよく伸びる
- 枝が暴れるのでこまめに剪定
- 肥料スタート
- 害虫が動き始めるため観察を増やす
夏(6〜8月)
- 葉が大きく水切れが早い
- 葉焼け注意(特に西日)
- 肥料は控えめに
- “涼しい時間帯”の水やりが基本
秋(9〜11月)
- 紅葉の決め手は「昼夜の寒暖差」
- 肥料は10月まで
- 水はやや控えめに
- 落葉後は枝の観察シーズン
冬(12〜2月)
- 完全休眠
- 乾燥に注意
- 可能なら軒下へ移動
- 植え替えの準備を進める
病害虫
- アブラムシ
→ 若芽を狙う。見つけたらすぐ流す。薬剤でもOK。 - カイガラムシ
→ 幹につく白い粒。ブラシでこすり落とす。 - 根腐れ
→ 水はけ悪化時に発生。植え替えと用土改善で対処。
病害虫にはスプレーでの対策は欠かせません。耐性ができないよういくつか違うものをローテーションして使うと良いです。
盆栽の増やし方
挿し木

ベスト時期
- 6月(梅雨入り頃)
湿度が高く、発根が安定するため成功率が高まります。
どの枝を使う?
- 今年伸びた若い枝(緑色〜薄茶色)
- 太すぎない枝(直径5mm以下)
- 真っ直ぐで節がはっきりしている枝
※ 冬の枝(前年枝)は硬すぎて発根しづらいです。
挿し木の手順
- 10cmほどに枝を切る
→ 上下を間違えないように注意 - 下の葉を取り、節2つは土に埋まるように
- 鹿沼土 or 赤玉土(小粒)に挿す
- 鉢底からしっかり水が出るまで灌水
- 直射日光を避けた明るい日陰で管理
- 乾きすぎないように湿度をキープ
発根の目安
- 早い株で 3〜4週間
- 遅い株は 2ヶ月ほど
発根後は少しずつ日向に慣らし、秋以降に小鉢へ植え替えると安定します。
取り木
イチョウは幹や枝が比較的まっすぐ育つため、取り木で小品素材を作るのが非常に相性がいい樹種です。
ベスト時期
- 5〜6月(成長期)
形成層が活発になり、発根しやすい季節です。
取り木の手順
- 樹皮を2〜3cm幅でぐるっと一周剥ぐ
- 形成層(ぬめり部分)をしっかり削り取る
- 水苔を湿らせて、傷口を覆う
- ポリ袋で包み、上を紐でしっかり縛る(ビニールポットでもOK)
- 袋の上からアルミホイルなどを巻いて光を遮る
- 時々水苔の湿り気をチェックする
発根の目安
- 成功すると 6〜10週間で白根が袋の中に見える
- 根が十分出たらその下を切って鉢上げ
失敗しやすいポイント
- 形成層の削り残し(=根が出ない原因No.1)
- 水苔がカラカラに乾く
- あまりにも細い枝にかける
実生
秋に種取り、冬〜春に播く
実生のメリット
- 幹が素直に伸びる
- 針金で曲がる
- 成長が早い
- 銀杏から育てられる
「自分で育てた一本」という愛着も大きく、僕はイチョウの実生素材が非常におすすめです。
僕も実生や挿し木で数鉢育てています。この木は実生から育てている素材です。太らせるために大きめの鉢に入れて走らせて作っていますが、来年の春にはもっと小さい鉢に入れ真ん中の芯になっている部分をバッサリカットする予定です。

よくあるトラブルと対処法
葉が大きすぎる
→ 肥料過多・剪定不足
→ 初夏に葉刈り(半分だけ)すると多少小さくできる
枝が全然出ない
→ 冬の切りすぎが原因
→ 春の芽吹きまで待つしかないが、次回以降は「段階的な剪定」にする
よくある質問(FAQ)
イチョウは室内で育てられますか?
基本は不可です。日照不足になり枝が弱ります。
紅葉をきれいに出すコツは?
秋は水を控えめに、肥料は早めに切り上げ、日向で管理します。
葉がすぐ傷んでしまうのはなぜ?
日照不足や肥料過多、風通しの悪さが原因になりやすいです。
夏に葉焼けして困っています。対策は?
朝だけ直射に当て、午後は半日陰へ移すか遮光ネットで調整してください。
小品でも大きな葉を小さくできますか?
性の影響が大きいと思いますので、完全に縮めることは難しいですが、下記に気をつければある程度コンパクトにできます。
まとめ
イチョウは見た目が優雅で、紅葉も美しく、初心者でも育てやすい樹種です。ただし、葉が大きくなりやすいというイチョウ特有のクセを理解しておくと、育て方の失敗がぐっと減ります。
- 日当たりと風通しが最重要
- 秋は肥料と水を控えめに
- 剪定は段階的に
- 針金より剪定主体で樹形を作る
- 増やすなら実生が楽しくておすすめ
ぜひあなたの棚場にも一鉢、イチョウを迎えてみてください。








